女社長

  私の動かし方を良く知っている.
  しかも、心地よく動かしてくれる.
  そう感じる人との出逢いは人生の中で、幾度とない.

  この人が、当にそんな人.
  自分から人に挨拶をしに行くなんて、滅多にしない私が、
  彼女には会いに行きたいな、と、帰国の毎に顔を出していた.
  「今の仕事が終わったらまた無職なので、いい先があったら、宜しくお願いします!」
  と、冗談交じりに、言った時には、
  「あんたみたいにアフリカにすぐ行ってしまう子は知らないよ. 早く家庭をもちなさい.」
  と体よくお断りをされた.

  時を経て、2014年2月.
  「顔を見に、遊びに来ました~」と、いつものように軽い気持ちで訪問.
  「あんたの帰国を待っていたのよ~ まだアフリカに気持ちはある?」と、
  近況報告もそこそこ、彼女ペースでのやり取り開始.
  「今回は現実を見てしまったし、やり切って戻ってきたので、今の気持ちは日本です」
  という回答が終わるか終らないかの内に、話は先に.
  「仕事があるの. 教育. 企業研修. 法人営業. どう. ぴったりでしょ.」
  彼女に話したことはなかったはずだけれど、
  これからの日本を背負う、企業人の育成に関わる仕事に就きたい、と、探していた職種.
  狐につままれたような気持ちのまま、事務所を紹介するから、と促されるまま、くっついて行く.

  「席も用意してあるし、名刺も、もう来てるはず.」
  と、企業概要説明も、就労条件も詰めないまま、外堀から固められていく.
  でも、業務内容には納得し、気づいたら落とされている私.
 
  彼女が社長でなければ、就業したいと思う先ではない.
  吹けば飛ぶ程の小さい会社だし、御世辞にもしっかりしていると言える会社でもない.
  でも、彼女の会社への思い、若い世代への思い、仕事へのこだわりとプライド.
  何よりもあふれ出るアイディアとそれを強引にでも推し進めようとする実行力.
  それらが大好きだから、大切なことを即決でいいの?って、
  自分でも笑っちゃうくらいに簡単に首を縦に振っていた.

  きっと振り回される.
  意見のぶつかり合いなんて承知の上.
  でも、想いがあって起こした行動であれば、分かり合える.
  そう信じられるし、共に先に進んでいける人.

  ご縁に生き、活かされている人生に、今回はタイミング、という大きな要素も加わり、
  何か見えない力に導かれている感覚がある.
  それを活かすも殺すも自分次第.
  これまで通り、恩義を大切に、新しい時間を刻んでいきたい.

  引退したいから、なんて、言わないで、いつまでも一緒に働いてくださいね.