Abebe Zewdie

  配属されたEthiopian Volleyball Federationの技術部門の責任者.
  元、バスケットボール・ハンドボール・バレーボールの代表選手という、
  競技を超えたプレーヤーとしての経験が十二分にある、貴重な存在.
  大きな体に厳つい顔は、ちょっと怖いな、と感じる強烈な第一印象.

  彼とはお互いが操る言語が違う為、言葉を介しての意思疎通は困難だった.
  私ができることは、バレーボールの指導を通じて自己表現をするだけ.
  それでも、半年ほど経ったときには、最高のパートナーとなっていた.

  全くの異文化で仕事をする上で、言葉で伝える、というのは一つの大切な方法となる.
  ましてや、一癖ある孤高の国、Ethiopiaで、以心伝心は神業.
  それでも、Abebeとは120%お互いに理解し合えていた、という確信がある.
  私たち二人の間にあったのは、Ethiopiaのバレーボールをより良くする、という信念のみ.
  お互いに言葉が通じない分、五感を研ぎ澄まし、心のキャッチボールをしていた気がする.

  この感覚を表す旨い表現が見つからない.
  恋とか、愛とか、そんな単語が薄っぺらく感じてしまうくらい、心が重なる相手.
  それまでは無意識のうちに理性で人と接し、気遣いばかりして、人付き合いは疲れるもの、
  そんな風に考える人間だった.
  なのに、Abebeに対しては、自然と感性が理性を追い越し、心遣いができていた.

  正直を言うと、最初はあまり好きになれないな、という印象の方が強かった.
  仕事第一、休みの日には好きなことをして、家族のことなんて二の次.
  彼を知る前はそういう風に見えた.
  けれど、時間を共有するにつれ知る彼の凄さ.
  それは関わる全てのことに対し、全力で臨む真摯な姿.
  家族を守らないといけない時には、全てを放り出して家族を守る.
  仕事で難しい局面に立ったら、真っ先に自らが動き、指針してくれる.
  家でも職場でも相手を信頼し、自由に動かせてくれつつ、しっかり見守っていくれている.
  そして、特に問題がない時には自分を優先した行動ができる.
  関わる事象に優先順位をつけるのがうまく、それが周囲も納得するものだからこそ、
  Abebeは誰からも愛され、信頼され、他のスポーツ連盟からも一目を置かれていた.

  Abebeと共有した時間は、今も尚、自分がこの世に生を受けて良かった、と思えるほど.
  いつまでも輝く、宝物のような時間として私の中に大切に留まっている.
  そこに未練とか、また一緒に仕事をしたい、とか、そんな邪念は少しもない.
  奇跡の時間だった、という事実に納得しているからなのかもしれない.

  人との関係構築は時間の長さではなく、深さ.
  これも、Abebeと出逢う事で、実感できたこと.