Tryout

  ある英国から来た音楽家が面白いことをしていた.
  彼の叔母が遺言として、「遺産をAfricaの女子教育の為に遣うように」と、添えた.
  72歳で独身だった彼は、その遺言を実行するために、エチオピアに渡った.
  そして、若かりし頃のガールフレンドがバレーボールをしていたから、
  という素敵な理由で、女子教育に心身を育成するプログラムを加え、
  その切り口としてバレーボールを選んだ.
  そこでアプローチをした先が、幸運にも私の配属先だったEthiopian Volleyball Federation.

  彼は、単純に自分の支援している子供たちにバレーボールを教えてもらいたかっただけ.
  でも、口実として、「代表選手育成の為のJr.チーム」を持ちかけた.
  チームを運営して1年が経ったときに私が着任し、その口実に食いついた.
  ビジネスに駆け引きはつきもの.
  「国旗を本気で背負うチーム造りをするのなら、一から選手を選ばせてください」
  何の躊躇もなく音楽家に無謀な提案を持ちかけた.

  このチームに所属すると、住居・教育費・生活費・ちょっとしたお小遣い、等々、
  身一つで首都に上京し、学校に通い、バレーの練習をする環境が保障される.
  こんな贅沢な環境をどうして無駄にできよう.
  張りぼてチームを本物のチームにするのが自分の使命、と、
  自分が成し遂げられなかった夢もそこに重ね、本気で持ちかけた提案だった.
  それ程、国旗を背負う事に興味のなかったオーナーだったけれど、
  強引な駆け引きに付き合い、かくして、地方へトライアウトに行くこととなった.

  田舎町に厳ついEthiopian・怪しいBritish・子供にしか見えない日本人が突然現れ、
  全国各地でトライアウトを実施.
  挙句の果てに、
  「あなたは選ばれました.保護者の許可を得て、来月から首都においで.」
  と言う始末.
  日本だったら、こんな眉唾物の人さらいな行為が受け入れられるわけがない.
  自分の子供を見ず知らずの人に預けるなんて容易でない気もするけれど、
  余裕のある人が面倒をみる、という文化のこの国ではそんなことは杞憂.
  結果、選んだ殆どの子供たちが首都に集まり、Ethiopian National Jr. Teamが結成した.

  喧々諤々な選手選考の過程ではあったけれど、
  (オーナーは選手を芸術家らしく容姿で、Abebeは身長で、私は直観で選んだ)
  数百人の中から選んだ12名は最終的には三者が納得するものとなった.
  自分独りで選んでいたらここまでいいチームにはならなかった、と、今だから思う.
  何の繋がりもないそれぞれの視点だけれど、根っこではしっかりと繋がっていたに違いない.